このたび令和5.6.7年度の3年間、剣道専門分科会の会長を務めさせていただきます数馬です。本会は、平成11(1999)年に設立され「日本の伝統文化に基づく剣道の人文・社会科学的研究、スポーツ医・科学に基づく自然科学的研究、競技力向上のための実践的研究、教育現場における指導法の研究、生涯武道としての剣道の研究、国際化への対応など山積する課題に対してより多角的・学際的な立場で剣道の未来を考え研究してゆく」(『日本武道学会創立五十周年記念誌』)という趣旨において活動を行ってまいりました。現在は、学会での企画講演、研究会、会報『ESPRIT』の発行を三本柱として活動を続けています。
その活動について紹介します。本年(2023年)9月4日・5日に行われた日本武道学会第56回大会が緑豊かな大阪教育大学柏原キャンパスでは、剣道専門分科会企画として関伸夫先生(スポーツ庁政策課教科調査官)による講演会を開催させていただきました。関先生から「学校体育における武道授業の一層の充実に向けて」というテーマでお話いただき、剣道のみならず、ほかの武道種目の先生方たちから活発な質疑応答が交わされました。私自身はこの講演会を通して、剣道の武道としての素材をどのように表現し伝えれば、生徒一人ひとりが元気で教養豊かに育ってゆくことができるのかのヒントをいただく場となりました。
また本年(2023年)3月には「BUDO WORLD(武道ワールド)」との共催で、ドイツ在住のクンプ・嘉寿子先生からの「ドイツの剣道事情最前線」と題してZoomによるオンタイム講演をしていただきました。先生からは剣道の楽しさに触れるイベントの工夫など、ドイツにおける先生の精力的な取り組みを数多くご紹介をいただき、参加された皆様にとっても新鮮な学びがあったのではないでしょうか。
ところで、長らく続いた新型コロナ感染症が5類に移行後も、ある大学では半分の授業がオンラインにより実施されていることで、キャンパスにいる学生も少なくなり、楽しいはずの課外活動は逼迫状態にあると聞いています。一方で一般の道場では稽古日や参加人数が増え、外国人剣道愛好者の来日して稽古場を求める姿も数多く見るようになりました。対面で稽古できることの「ありがたみ」をコロナ以前より強く感じられます。またコロナ下で稽古ができない時には「猫の妙術」(佚斎 樗山:1659 -1741著)や「さとりの話(『千葉周作遺稿』)などの読み物に触れる機会が増えました。これらは刀を腰に差していた江戸時代に書かれたものであるからこそ実戦場面に近い想定で、捨て身、気の充実、相手と和する、などの意味を知ることのできる良い資料だと思います。別の資料を読むことも試みたいと思います。
またこの期間、日本剣道形(大正元年(1912)制定)を稽古する時間も増えました。稽古をしながら『日本剣道形解説書』(全日本剣道連盟発行)の行間の術理を学ぶ機会がもっと多くあれば、次の世代とともに、楽しく学べるのではと感じております。
剣道は日本では100才を超えて道場に立つ先生がおります。国外でも年令を重ねて稽古を続ける剣道愛好者が数多くなってきました。そしてその先生方は身心ともに自らを鍛え続ける一方でしなやかな発想をもっておられます。健康長寿を期待される時代に、剣道は、益々世界から注目されるでしょうし、われわれは研究面からそれに応えてゆかなければなりません。設立の趣旨にありましたように「剣道の未来を考え研究してゆくことが必要不可欠である」を心して、未来を見つめて研究活動を進めてゆきましょう。
本会の研究成果が、国内外の研究者や剣道愛好者にも注目され多くの交流ができますことを望み、さらには若手研究者のご活躍を期待し、挨拶とさせていただきます。
(ESPRIT2023から抜粋し加筆)