「日本の身体-近世から近代・現代へ」剣術・撃剣の身心技法-剣道の不易と流行-
「日本の身体-近世から近代・現代へ」剣術・撃剣の身心技法 -剣道の不易と流行-
(早稲田大学スポーツ文化研究所研究会より)【分科会代表】大保木輝雄(埼玉大学)
【日 時】平成18年12月22日(金)
【場 所】早稲田大学人間総合研究センター分室本年度研究会は、当初平成18年12月2日(土)に明治大学において開催する予定であったが、その後演者として予定していた会員がアジア大会(ドーハ)に役員として急遽派遣されることになり、幹事会の了承を経て下記のように変更した。
平成18年12月22日(金)に早稲田大学人間総合研究センター分室(高田牧舎ビル2階)において「日本の身体-近世から近代・現代へ」をテーマとして「早稲田大学スポーツ文化研究所研究会」が開催されたが、同研究会にパネラーとして当分科会・大保木輝雄幹事長(埼玉大学)が「剣術・撃剣の身心技法」と題して登壇・発表されるので、早稲田大学スポーツ文化研究所の御厚意もあり、これに武道学会員および剣道専門分科会会員の参加を得ることで、今年度研究会に替えた。§ 研究会次第:
司会:石井昌幸氏(早稲田大学スポーツ科学学術院・助教授)
発表(1) 「剣術・撃剣の身心技法」
大保木輝雄氏(埼玉大学教育学部・教授)
発表(2) 「柔術・合気道の身体技法」
志々田文明氏(早稲田大学スポーツ科学学術院・教授)
ディスカッション「日本の身体-近世から近代・現代へ」
大保木輝雄氏(埼玉大学教育学部・教授)
志々田文明氏(早稲田大学スポーツ科学学術院・教授)
岡田 桂氏(関東学院大学文学部・専任講師)
なお、当日は、33名の参加があり、うち9名が武道学会員の参加
1 歴史的視点から剣道という文化をどう見るか
(1)戦国時代の戦(いくさ)の場 → 命がけの場(格闘術)
総合武術
「武士(もののふ)の 学ぶおしへはおしなべて 其の究(きわまり)は死のひとつなり」
(塚原卜伝1489-1571)
鉄砲の伝来(1543)、剣法の組織化・体系化、殺人刀・活人剣
「予は諸流の奥源を究め陰流において別に奇妙を抽出して新陰流を号す 予は諸流を廃せずして
諸流を認めず」(上泉信綱1508-1577)
(2) 近世武芸の勝負(対峙)の場 → 真剣の場(芸道)
伝書の成立、剣術の独立・階層化、型(形)の成立、剣術の理論化
用具の改良、試合(仕合)の流行、武士の剣術・農民の撃剣、流派の増加
(3) 近代剣術(剣道)の場 → 一本の場(競技)
流派の解消と競技システムの開発
日本的な精神性を反映したスポーツ的「武道」の創出
西洋思想に基づく「柔道」の発明をモデルとした「剣道」を創出
剣道の教育教材化に腐心
交剣の場(勝負の場)に「いのち」の実相(不易なるもの)を見、勝負の哲学が構築された
2 組太刀(型)から撃剣、そして剣道へ
(1)組太刀稽古の成立 流祖の「一刀」(極意太刀)を原型として体系化
基本の一刀と極意の一刀は同じ運動だが内容が全く違う
技術を成立させている考え方:一撃必勝、攻防一致
(2)撃剣の成立 組太刀が基本(理)でその応用が撃剣(事)
事理一致、打突部位の制定、「一刀」から「一本」へ
(3)剣道の成立 撃剣試合(競技)が中心、新たな統一剣道形の制定
「機・気」を媒介として「いのち」の本質を感得する術が剣術
3 型の身心技法と剣道(撃剣)の身心技法を考える
(1)新陰流(型)の技法 ・直心影流(型+撃剣)の技法・試合
剣術(撃剣)の技法・勝負技法・表現技法・内観技法といった三つの視点から捉えることができる。
■新陰流の技法
後に引かない、一重身、相手に先をさせる、相手の太刀筋の真下に入る、「打つに打たれ、打たれて勝つこと」、相手の太刀筋を軸に回転して勝つ。「身懸り五箇の事(身を一重に成すべき事・敵のこぶしに吾肩にくらぶべき事・身を沈にして吾拳を楯にしてさげざる事・身をかかりさきの膝に身をもたせ跡のえびらをひらく事・左のひじかがめざる事)」「機をみる」「下の作り」
■直心影流の技法
真歩、阿吽の呼吸、瞬きをしない、気合(声)をだす、相手に正対する、相手に対して遅速なく合わせる、春夏秋冬のイメージをもって組太刀を実施する、非打(自分自身の非を切る)、茶巾絞り、気剣体一致
(※)法定はゆっくり使い、?之形はかろやかで素早く使う。一挙手一投足にすべて意味が付与されている。
■試合剣術の技法
切手、止手、突き手、面打込、打込籠手、左片手突、両手突、一間三足、常歩の如く歩む、目見の作用をよく知るべし、「天賦の形」、「形正しければ求めずして其の動作は意の如くなるべく、極りなき変化に渉りて、其の蘊奥を窮むること必ず速なるべし」、形のこと、足幅のこと、體くばりの事、構への事、場間の事、勝ちがたきに勝つべきこと。
(※)気剣体一致
「流儀にては一円を○形と尊びて熟練の形ちとなる事、修行の角菱取れて、何方へも差しつかへず通りて変化自在なる処にて、是を常に気剣体一致と教えて、その形は体と太刀と一致に連れて離れ離れにならず、まん丸になる処は少しも透間なく、心も又丸く、身体へ一杯になる時は、内十分に実して虚なくして、是こそ平日教ふる気剣体一致の一円と云ふもの也」(直心影流窮理之巻)。現代剣道の「一本」を成立させている要件となっている。
(2)型からの学び
関係性の認識 間合・気合・理合
(3)「勝負」からの学び
攻め→場の成立→生機→勝負→残心
「一本」自体が進化・深化・新化する
気剣体一致した「一本」に剣道の不易(いのちの本質)をみる。
4 まとめ
心と体の間・自分と他者の間・個人と大自然の間にハタラク力を感得することが課題
「肚」のすわった人間づくり=退かない・恐れない・凝らない身心を養成する
「勝負」を介した身心技法の体得