剣道における下半身動作のメカニズム
[演題]剣道における下半身動作のメカニズム
【演者】高橋健太郎(群馬工業校等専門学校)
【日時】平成16年11月3日 18:00~20:00
【場所】明治大学 駿河台キャンパス
発表内容の解説
今回の講演内容は剣道の持つ独特の動作に着目し、その中でも特に下半身の動きのメカニズムについて、以下の3つのテーマに分けて発表しました。
1. 下肢の筋力発揮特性
2. 剣道動作における下肢筋力出力機構
3. 剣道における下肢の役割
人間はだれでも、筋肉を収縮させて腱や骨に力を伝達して関節を動かしています。この個々の動きがたくさんつながることで動作として現れます。動作を探るためにはまず、筋肉の働きを知る必要があります。ヒトの体にはたくさんの筋肉が付着していますが、それぞれ付着している場所や長さなどの解剖学的な違いから、その働きにも特徴があります。今回発表する下肢の筋肉においても膝や足首の関節角度の違いで筋力発揮の仕方がずいぶんと変わってきます。膝を伸ばすための筋肉(大腿四頭筋)をみると膝の内角がおよそ120°位のときに大きな力発揮をすることができます。このように剣道の動作においても体をスムーズに移動させるためには下肢の筋肉の特徴を充分理解し、それぞれの筋肉を効率よく働かせることが重要になってきます。
剣道の正面打撃動作を例にとって、剣道の下肢の動きからその力学的特徴を説明します。剣道は一般的に、左足で踏み切るという独特の動作をおこなっています。そのとき個々の関節からは力(トルク)が発揮され、動作として外部に現れてきます(図1参照)。下肢の関節で発揮されるトルクは股関節、膝関節、足関節ともに同時にピークがくることがわかりました。この場面では若干、体が沈み込み、垂直飛びなどで見られる反動動作をおこなっていることが考えられます。様々な研究を見ると垂直跳びなどでは股関節、膝関節のトルクが大きくて、足関節では少ないという報告をしています。また、立ち幅跳びの研究では足関節と股関節が大きいトルクを発生するためそこからエネルギーを得ている、という報告もあります。しかし、剣道における踏み切り動作は足、膝関節の貢献が高く、同じ跳躍動作といえども全く異なった下肢の役割を持つことが明らかになりました(図2参照)。
また、剣道では他の競技に比べアキレス腱に関する傷害が多く発生しています。そこで、正面打撃における左足踏み切り時には、アキレス腱にどの位の張力が発揮されるかを推定してみました。すると、左足踏み切り時にアキレス腱に発揮される張力はおよそ3500N程度であると推定されました(図3参照)。
剣道では「一眼二足三胆四力」と、よく言われます。「足」、特に下半身の動きに注目することは、技術の上達のために不可欠です。このように、普段から下半身の動作を見つめなおすことは非常に重要だと考えられます。まさに人間が「考える葦」ならば剣道は「考える足」なのです。