剣術における文化的独自性の探究
■平成15年度剣道専門分科会研究会(東京支部担当)
[演題]剣術における文化的独自性の探究
:刀剣観の日本精神史的研究
【演者】酒井利信(筑波大学体育科学系講師:武道学会会員)
【日時】平成15年11月2日 18:30~20:00
【場所】工学院大学11階第6会議室
【参加者】(敬称略、順不同)
佐藤成明、大保木輝雄、小澤博、大矢稔、横山直也、数馬広二、 武藤健一郎、鍋山隆弘、齋藤実、有田祐二
【講演内容】
■ 平成13年度末に学位を取得された論文の一部を、パソコンのパワーポイントで図式化したもの等を用い、わかりやすくほぼ1時間かけて御講演下さった。
一部とはいえ、使用された文献資料、関連論文の質や量、ご用意下さった抄録の内容やボリューム(全31頁)から莫大で相当量の研究量がうかがえた。
■本章は5章立てにされており、各章は下記の通りである。
第一章 古代中国・朝鮮における刀剣観について
第二章 古代日本における刀剣文化受容の様相
第三章 宗教に関わる刀剣観
第四章 三種の神器にみられる刀剣観
第五章 近世剣術における刀剣観
■紙面の関係で全てを網羅できないが、要点を記すと以下の通りとなる。
氏は「日本における刀剣観は重層性(三層構造)をなしている(図1参照)」とし、それぞれ1.潜在意識の層、2.共通理解の層、3.現実の活動の層で、多くの場合下層に依拠するかたちで成り立ち、有機的連繋があるとしている。また、これらの刀剣観において刀剣が象徴的に機能しており、それらが日本的特徴であることを強調された。
そして、刀剣に対する観念では東アジアの中で普遍的な流れがあり、その一つが「剣の観念」であり、刀剣の中で「刀」ではなく特に「剣」を神聖視する観念があるとする。そして、「剣の観念」の系譜には大きく三つの転換期(一つは古代日本における変質、二つ目は中世日本における武士集団台頭に伴う変化、三つ目は中近世の境における変化)があると指摘された。
また、辟邪の呪術が剣術において認められたことも特筆すべき成果であると述べられた。
講演後、会場であった工学院大学、数馬先生の司会で質疑応答に約30分の時間がとられた。出席者のほぼ全員から感想を含む質疑がなされた。全日本剣道選手権の前日ということもあり多忙な時期とは思われるが、今後多数の出席者を望まざるをえない参加数であった。
現代、競技化された剣道が、日本刀を模した竹刀を用いていながら「刀道」ではなく「剣道」とされていることからも、これからの剣道の進む道を一考する上で一石を投じる意味深い講演であったことは、全出席者が感じたであろうことは否めない。
(文責)有田祐二